トビイ ルツのTraveling Mind

琥珀の眼の兎

 今から4年ほど前に、たまたま図書館で見つけて読んだ本の『琥珀の眼の兎』。イギリス人作家が、自らのルーツである富豪のユダヤ人一族について書いた、実話に基づく壮大なノンフィクション小説です。物語に登場する家族がウィーンに住んでいたことから興味を持って読んだのですが、ナチス統治下に実際にウィーンで起こった悲劇に強い印象を受け、ユダヤ人が多く住んでいた旧市街地辺りを訪れる度にお話を思い出さずにはいられません。 
 物語のタイトルは、日本の江戸時代に作られた「根付」、アクセサリーにあたる装飾美術工芸品の兎です。物語に登場する一族の主がコレクションしていたこの根付の兎は、奇跡的に過酷な運命をくぐり抜けて、小説の著者であるエドマンド・ドゥ・ヴァール氏に受け継がれているのですが、なんと先日、その実物を見ることができました。 
 ウィーン美術史美術館で、現在行われている企画展で、著者のヴァール氏がキュレーションを担当。その中の展示物のひとつとして、「琥珀の眼の兎」が登場していたのです。

 「ぜひ見なくては!」と興奮気味に美術館を訪れ、展示会場に直行したのですが、当のうさぎさんは、展示室の入口の前に特別に置かれたガラスケース中に鎮座していて、いきなり会うことができました。最初の印象は「思ったより大きい」。2〜3センチ程度の大きさのものを勝手に想像していたのですが、実際にはその倍はあったでしょうか。白くなめらかな姿、深紅の琥珀の眼。持ち上げた前足と後ろにねた耳のうさぎ独特のしぐさが可愛らしく、これがあのうさぎなのか、と感慨深くいろいろな角度から長い間見つめていました。
元々は大阪で作られたものだそうで、物語によると、パリやウィーン、そして東京、ロンドンとあちこち数奇な運命で旅をしているうさぎ。何のご縁かたまたまタイミングよくウィーンでそれを見つめている私...と、勝手にドラマチックに感じずにはいられません。(笑)
 
 企画展は、ヴァール氏が過去3年間に渡り度々ウィーンに通い、美術史美術館のコレクションの中から独特の視点で選んだもの(数点を除く)。彼がインスパイアされた画家のアルブレヒト・デューラーが描いた夢の絵をはじめ、「夜」を感じさせるシュールな作品が集められています。国際的に活躍する陶芸アーティストでもあるヴァール氏自身が制作した陶芸作品や、私がこの美術館に訪れる度に必ず観に行く「美術工芸収集室」でもお目にかかったことのない、珍奇な美術品も見ることができました。文筆のみならず美術家としてのヴァール氏の表現も素晴らしいです。


Edmund de Waal meets Albrecht Durer」展は2017年1月29日まで。




by rutsu_tobii | 2016-10-26 23:59 | アート&デザイン

トビイ ルツ|TOBII & RUTSU「ペン一本でどこでも行ける」生活に憧れるイラストレーター&モノ書きです
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